クトゥルフ神話の成立と展開

 クトゥルフ神話の創設者は、20世紀初頭の、米国、プロヴィデンス出身の怪奇小説作家、ハワード・フィリップス・ラヴクラフト(Haward Phillips Lovecraft)です。
しかし、、当初から彼は新しい神話体系をつくろうとしたわけではない。ラヴクラフトは、自作のホラーに小説に、すでに手あかがついて記号化してしまった過去の魔術や魔物、悪魔といったものを使わず、未だ誰も聞いたことのないオリジナルの魔術書や怪物を出し、自作の中で、それらを使い回しました。

 それは作者と彼の熱心なファンでけが気づく、ある種のお遊びだったのである。だかそれは、全てを書かないことによって神秘性と想像力を書き立てるホラーの手法と相まって、それらの小道具や邪神を一層魅力的にした。小説の表面には出てこない、裏の歴史や世界の広がりを感じさせたのです。
 
 これに魅了されたラヴクラフトの友人作家彼の友人である作家達―ロバート・アーヴィン・ハワード、クラーク・アーシュトン・スミス、ロバート・ブロック等―も彼の許可を得て、彼の創った世界を自分たちの作品中に取り入れ、世界の創造に携わっていった。ラヴクラフトは非常な文通家でもあり、彼が友人達とやり取りした書簡にも、それらの設定のアイデアに関する記述が多く見られます。

 このような経緯ででき上がったために、クトゥルフ神話には他の文学的神話に見られるような、意識的な指向性がありません。あるのは、宇宙の根本的恐怖という統一テーマだけです。

 しかし、ラヴクラフトの死後、これらの作品は急速に衰えていった。忘れ去られようとしていた神話を救ったのがラヴクラフトの弟子であったオーガスト・ダーレス(August Derleth)でした。彼は出版社「アーカム・ハウス」を設立し、生前はほとんど出版されなかったラヴクラフトの作品の単行本を出版すると共に、ラヴクラフトの作品や彼の書き残したアイディアメモなどから、クトゥルフ神話を合理的に体系づけました。

 このダーレスのクトゥルフ神話の体系づけには賛否両論ある。例えばギリシア四元素論を邪神たちの分類に使ったり、善悪の対立構造を作ったりするのは、神話のもっている「理解できない恐怖」を弱めるものであるという批判があります。そもそもこれらの概念はラヴクラフトの作品にはない。ダーレスのオリジナルです。 

 しかし、同時に、この体系立てられたわかりやすさのおかげで、他の人々も気軽にクトゥルフ神話を読んだり、あるいはクトゥルフ神話作品をつくることができたことも事実です。また、ダーレスの熱心なクトゥルフ神話作品の出版が、ファンを増やしたことも重要です。

 かくして、クトゥルフ神話作品群はホラーファンの間で有名になり、新たな作家たちが次々と参加した。 現在でもクトゥルフ神話は、スティーヴン・キングやコリン・ウィルソンといった作家達によって書き継がれ、日本でも栗本薫、菊池秀行達によって書かれています。また、小説のみならず、漫画、映画、ゲーム、TRPG等にもなり、新たな世界を展開し続けています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次